第6回:訪問看護の現場から 伝えたい、排泄ケアの大切さ
田町駅から徒歩12分、親会社キヨタ株式会社の持つ自社ビルの中にキヨタ・ライフケアサービス株式会社はある。同社は、居宅介護支援、訪問介護、訪問看護、介護付き有料老人ホーム4つの事業を柱に、介護と看護の総合的なサービスを提供している。廣田さんは20年以上訪問看護の最前線で活躍し続けているベテラン看護師だ。同社入社後は訪問看護ステーション「キヨタナースステーションみなと」の立ち上げに携わり、今現在は在宅介護事業部の部長としても看護・介護両方の分野で幅広い業務を行っている。同ステーションは港区全域に対応しており、0歳から103歳までの約90名の患者さんが利用している。小児の看護などのケアから、排泄や経管栄養などの高齢者のケアまで様々なニーズに対応していく中で、『本人や家族が喜びを感じられる』そして『自分も携わることを楽しむ』看護を大切にしているという廣田さん。今回は、そんな訪問看護の現場でのお話を伺った。
訪問看護の現場で多く見られる、排泄トラブル
訪問看護の依頼の中で6割から7割を占めているのが排泄ケアに関わることだという。「病気で入院し、絶食後の排泄トラブルの依頼はとても多いですね。最近は経管栄養を利用する方も増えているので、それによって起きた嘔吐に対してのケアの依頼も多くなっています。」と、廣田さんは言う。「病院で口から食べることへのリハビリテーションがないまま家に帰されてしまうケースもあります。消化管を動かさないと排泄もうまくいかないので、『食べて出す』ということの重要性をもっと医療者も家族側も考えていければ。と日々感じます。」と、言う。本人は食べたいという意思があっても回りが気づいてあげられず、食べられないと思い込んでしまうケースも多いという。「普段は食が細く、栄養補助食品などは全然食べようとしないのに『昨日コロッケ食べちゃったのよ!』と言って笑っていらっしゃった100歳の利用者さんもいます。『自分が食べたいものを食べる』ってその人の生きる力にとても強く繋がることだと思います。」
人に伝えられる力を養っていくことの大切さ
「排泄のことだから『汚い』『恥ずかしい』なんて思わず、積極的にコミュニケーションをとってほしい。」そう廣田さんは語る。ご自身も3歳の男の子を育てる母として、出したものを見て、嗅いで、自分の食事や体の状態を振り返る“便育”を日々実践している。そのような感性を養っていくことは“心と体の健康”を保つのにも重要だという。「知識や技術を身につけることももちろん必要ですが、自分の心と体の声を聞いてそれに従うことはもっと大切だと思います。疲れ切った心と体ではご本人やご家族の変化や伝えたい気持ちにも気づきにくくなりますから。」と、言う。「排泄がご自身でできない親御さんを介護されている娘さんに、『大変でしたね。』と声を掛けたらその場で涙を流されたことがあります。自分の気持ちを理解してくれる人がいるって、すごく嬉しいことです。私たち訪問看護師は家族の一員として、悲しみや喜びを一緒に分かち合っていけることがこの仕事の醍醐味だと思っています。」と、熱のこもった声で話す。医療従事者である以前に、一人の人として利用者とそのご家族と向き合う廣田さん。生き生きと働くその姿から、元気をもらう人も多いに違いない。
看護師 廣田仁美
総合病院や訪問看護ステーションでの勤務後、2012年3月よりキヨタ・ライフケアサービス株式会社。 2012年6月キヨタナースステーションみなと設立時より所長を務め、2017年4月からは在宅介護事業部部長として勤務。