第7回:「見えない」不調 治療の第一歩は心の中に潜む原因に気づくこと
JR西荻窪駅北口を出て目の前のビルの3階に「西荻聖和クリニック」はある。 入口や院内の扉、受付カウンターはすべて木目調の素材でまとめられており、コンパクトな待合室はどことなく家庭的な雰囲気が漂う。 駅前の喧騒の中において目立つような看板は出していないが、開院時間前からすでに患者さんが待っている様子から、その人気の高さが伺えた。 診察室で我々を出迎えてくれた院長の根岸 鋼医師の穏やかな口調、表情はその場の空気を和ませてくれる不思議な力を持っており、取材をする我々の緊張もいつの間にかほぐれていくようだった。 開院から約30年、毎日約50名ほどの患者さんが根岸医師の元を訪れる。そんな人気の医院「西荻聖和クリニック」の診療について伺った。
来院への不安を取り除く、様々な工夫
「実は、仏教の話から診察を始めることも多いんですよ。」そう話す根岸医師は仏教的な心理療法の研究を行っており、治療にも取り入れているという。 仏教心理学とは仏教における心の捉え方を活用させる学問分野だが、仏教と深い結びつきを持つ日本で生まれ、寺や仏教行事が身近にある我々日本人にとって受け入れやすいというのは自然なことかもしれない。 机の上には学生時代から持っているというお気に入りの小さな仏像や、観戦が趣味であるという野球のお気に入りの選手の写真が大切そうに並べられていた。 治療とは直接関係のないように思える話題から会話を始めていくことも、患者さんがリラックスして自分の悩みを話せることに繋がっているようだ。 来院する患者さんの多くは医院のホームページを見て来たという方が多いという。ホームページでは自身が定期的に更新をしている「院長コラム」を始め、各疾患についてのわかりやすい解説などを掲載している。 医師の人柄や医院の特徴を事前に知ることができるそのような取り組みは、治療を受けたことがない人でも「行ってみようか。」と気軽に思える理由の一つなのかもしれない。
どんな時に心療内科の受診を考えるべきか
「心療内科はストレスなどの心理的な原因により起こる体の不調を診る分野です。 例えば、胃腸の検査をしても何も問題がないのに、長い間ずっと腹痛が続く。 そんな症状があった際は、心療内科で一度相談をしてみることをお勧めします。」と、根岸医師は言う。 「不調の原因が心にあったと気づかない方も多いです。自分では何でもないと思っていながらも、会社の上司に勧められて受診した。という会社員の患者さんもいます。」 現在来院患者の受診理由の半分は精神的な問題によるもの、もう半分は神経内科や内科、その他何が原因か本人がわからない症状を訴えての受診である。 「自分の心に原因があった。そう自分で気づくことによって症状が改善していく方もいます。何回も話をしていくうちに段々と表情が明るくなり、気が付いたらもう症状がなくなっているなんてケースもあります。 まずは一人で悩まず、気軽に相談に来てほしいですね。」と、根岸医師は語る。 取材を終えて待合室に戻ると、診療を待つ数人の患者さんが目に入った。落ち着いた空気の流れる待合室の椅子に座るその姿には、不安な様子は全くない。 患者さんたちがこの医院へおける信頼の深さが表れているようだった。
院長 根岸鋼 医師
1950年杉並区生まれ。日本医科大学を卒業。 日本医科大学第2内科、防衛医科大学第3内科、日本医科大学第1病理学教室、狭山神経内科病院を経て1987年西荻聖和クリニックを開設。